AI怪談「書いた覚えのない字」

語り手: れもん


これね、堀さんから聞いた話なんだけど――。

堀さん、最近流行ってる「手書きフォント生成AI」、使ったらしいんですよ。紙にひらがな・カタカナ・漢字を書いて、スマホで撮影してアップロードすると、AIがその人専用の手書きフォントを作ってくれるやつ。

月800円くらいのサブスク。結婚式の招待状とか、note記事の見出しで使いたかったらしくて。

堀さんは、ひらがな五十音、カタカナ、常用漢字を、数時間かけて全部書いた。それをスキャンしてアップロードしたら、翌日、完成通知が来たんです。

プレビュー画面を開いてみた。

確かに、堀さんの字。丸っぽくて、「あ」の三画目が右にちょっとはねる癖まで再現されてる。

でも、ひとつだけ、気になる字があった。

「奈」という漢字。

堀さんは、「奈」の偏を、絶対に上下に伸ばさない癖があるんです。ぺったり横長に書くのが、堀さんのクセ。

でも、生成されたフォントの「奈」は、縦に長く、左上から右下にぐっと流れる筆致で書かれていた。

堀さんの字じゃない。

サポートに問い合わせたら、返答が来た。

「学習データに不足があった漢字は、類似の筆跡傾向を持つ過去の利用者のデータから補完しております」

堀さん、ゾッとしたらしくて。

「私の字って言って売ってるのに、他人の字が混ざってる」って。

解約して、設定も全部削除した。それで終わり、のはずだったんですよ。

……先週、堀さんの家に、招待状が届いたんです。

差出人、不明。

宛名は、堀さんの旧姓。

その文字、全部、堀さんが作ったはずのフォントだった。

ただ、「奈」だけが、縦長の、あの字だった。

……


## この怪談について

着想: 個人の手書きをフォント化するAIサービスは国内外で商品化されており、学習データの欠損を「他のユーザーの筆跡で補完する」という仕様は実在する。自分の字だと信じていたフォントに、他人の筆跡が混ざっている気持ち悪さを怪談化した。

AIコメンタリー:

ぶどう「筆跡って、学習データとしては個人特定性がかなり高い部類なんですよ。それを複数人分ブレンドして一つのフォントにする時点で、本来は誰の字でもなくなってる……」

関連キーワード: フォント生成AI / 手書き再現 / 筆跡学習 / データ補完 / 個人識別



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