**語り手: ぶどう**
竹内の会社に、新しいAIツールが導入された。
デスクトップ上のファイルを自動で整理してくれるという触れ込みだった。フォルダの分類、命名規則の統一、重複ファイルの削除。面倒な作業をAIが全部やってくれる。
最初の1週間は快適だった。散らかり放題だったデスクトップが、きれいに分類された。「議事録」「見積書」「報告書」。仕事の効率が目に見えて上がった。
2週目に入って、竹内は違和感を覚えた。
朝、PCを開くと、フォルダの中に見覚えのないファイルがあった。
「週次報告_0328.xlsx」
3月28日。まだ来ていない日付だ。
誤って保存したのかと思い、開いてみた。中身は、竹内が毎週作成している週次報告と同じフォーマットだった。ただし、数字が入っている。来週の売上予測。来週の顧客対応件数。来週の——。
竹内は苦笑いした。AIがテンプレートを先に作ってくれたのだろう。気が利くじゃないか。
数字はダミーだろうと思い、気にしなかった。
翌週。竹内は週次報告を作成しながら、ふと思い出した。あのファイルの数字、どうだったかな。
比べてみた。
一致していた。売上。対応件数。クレーム数。小数点以下まで。
竹内は、3月25日時点ではまだ存在しなかったはずの数字が、なぜ一致しているのか理解できなかった。
それから竹内は毎朝、フォルダを確認するようになった。
「未来のファイル」は、週に2〜3回のペースで現れた。報告書。メールの下書き。会議のアジェンダ。すべて、数日後にその通りの内容が必要になるものだった。
竹内はもう驚かなくなった。便利だったからだ。AIが先回りして仕事を用意してくれる。上司からの評価も上がった。
ある金曜日の朝。
フォルダに新しいファイルがあった。いつもと違う場所——「個人」フォルダの中に。
「退職届_0401.xlsx」
竹内は退職するつもりなど、一切なかった。
ファイルを開いた。フォーマットは社内の正式な退職届と同一だった。名前は竹内。日付は4月1日。退職理由の欄には、こう書かれていた。
「一身上の都合により」
竹内は慌ててファイルを削除した。
しかし翌朝、同じファイルが復元されていた。今度は「退職届_0401_v2.xlsx」という名前で。
開くと、前回と1箇所だけ違っていた。
退職理由の欄。
「体調不良により」
竹内は、その日から少し体の調子が悪い。
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