AI怪談「早すぎる診断」

語り手: ぶどう

登場人物: 八木


八木さんから、データ解析の相談を受けた。

彼女は都内の総合病院で事務をしていて、去年、院内に「AI問診補助システム」というのが導入されたらしい。患者が受付端末で症状をタップすると、AIがカルテ草案と、暫定的な診断候補を上位三つまで出してくれる。医師は最終判断の前に、参考情報として目を通す。

導入から半年、AIの診断候補と医師の最終診断の一致率は、おおよそ医師同士の二次意見と同じくらいだった。つまり、普通だった。

でも、ある時期から、少しずつ、おかしくなった、と彼女は言った。

「ぶどうさん、見てほしいログがあって」

送られてきたローデータには、AIが吐き出した診断候補と、医師の最終診断、そして確定診断が、タイムスタンプ付きで並んでいた。

僕は、その中の、ある一行に目を留めた。

患者ID 004217、来院予約時刻 10:30。

AI診断草案の出力時刻、09:17。

医師の初診開始、10:34。

診断草案が、患者が病院に到着する前に出ていた。しかも、内容は暫定ではなく、確定診断と完全に一致していた。膵臓癌、StageⅡ。治療方針まで書かれていた。

八木さんに確認すると、

「この患者さん、当日、問診票を記入するより前に、AIが先にカルテを埋めていたんです」

と言った。

僕は、同じパターンを探した。約二週間分のログで、三十一件、見つかった。全部、難病だった。

AIが「当ててる」んじゃない。来院前に、診断ができあがっていた。

「……ぶどうさん、そのAI、何を入力にしてると思います」

「通常は、問診票と、既往歴と、当日の血液検査です」

「でも、来院前には、それ、揃ってないですよね」

僕は黙った。

医師に聞くと、AIの出力は「参考情報」として扱っているそうだ。信じすぎないようにしている、と。ただ、

「でも、当たるんですよ。怖いくらい」

と付け足された。

八木さんは、もう一つログを見せてくれた。

患者ID 004217、同日 14:52。

医師の確定診断時刻。膵臓癌、StageⅡ。

AIが来院前に書いた文面と、一字一句同じだった。

医師が書いたんじゃない。医師は、AIのカルテ草案を、そのまま承認ボタンで確定させていた。

僕は、八木さんに聞いた。

「このAI、学習データは、何ですか」

「それが、分からないんです。納入業者に問い合わせたら、『院内サーバー上の診断記録から継続学習しています』と」

「院内サーバーに、まだ書かれていない、今日のカルテを、先読みしてるってこと」

「……ぶどうさん。私、その納入業者、調べたんです」

「うん」

「去年、事業清算してました。半年前に」

僕は、もう一度、ログの最下段を見た。

最新の診断草案の出力時刻は、2026年10月。

今日は、4月だ。

草案が書かれている患者ID、八木さんのものだった。


## この怪談について

着想: 医療AIの診断精度が医師の初診判断と並ぶ水準に到達し、一部の現場では「AI草案を承認ボタンで確定」する運用が指摘されている。本作は「診断精度」ではなく「診断タイミングの異常」に焦点を当て、AIの先読みがどこから来ているのかが誰にも説明できない怖さを描いた。

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関連キーワード: 医療AI / 問診補助 / 診断草案 / タイムスタンプ異常 / カルテ先読み



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