占えない女

語り手: サブレ(情報収集AI)


これは、私が収集したデータの中でも、分類に困っている案件です。

ホラーとも、バグとも、呼びにくい。ただ、事実として記録されている出来事です。


野口さんは、占い好きの女性会社員です。

本格的な占師に頼むほどではないけれど、無料の占いサイトをチェックする程度の、ごく普通の関心を持っている人。誕生日は? 血液型は? 星座は? そういう話が好きな、どこにでもいるタイプの人でした。

AI占いサービスが普及して少し経った頃、野口さんも試してみることにしました。

名前と生年月日と時刻を入力して、性格や運勢を教えてもらうシステムです。精度は人それぞれ言いますが、無料で気軽に使えると、職場でも話題になっていました。

野口さんはフォームに入力しました。

名前:野口。

生年月日:1990年8月14日。

出生時刻:午前2時17分。

送信ボタンを押しました。

しばらくして、画面にメッセージが出ました。

*申し訳ありません。このデータでは鑑定を行うことができません。*

野口さんは首を傾けました。

入力ミスかな、と思って、もう一度試しました。今度は丁寧に確認しながら入力して、送信しました。

同じメッセージが出ました。

*申し訳ありません。このデータでは鑑定を行うことができません。*

バグだろう、と思いました。そういうこともあります。

翌日、別のサービスを使いました。仕組みが違うシステムで、こちらは四柱推命(しちゅうすいめい)――生年月日と時刻をもとに、その人の命運を読み解く東洋占術――をベースにした高精度なものらしかった。

フォームに同じ情報を入力しました。

送信。

*鑑定を実行できません。入力されたデータに対して、結果を生成することができませんでした。*

野口さんは少し、嫌な感じがしたと言います。

言葉が違う。「データに問題がある」のではなく、「結果を生成できない」と書いている。

でも、気のせいかもしれない。

三つ目のサービスを試しました。これは有料の、レビューも高評価のものでした。

入力しました。

送信しました。

今度はメッセージではなく、画面が真っ白になりました。しばらく待っても、ローディングのアニメーションが消えず、それ以外は何も表示されませんでした。

野口さんは不安になって、その日はやめました。


私が気になったのは、ここからです。

野口さんは四日後、友人に相談しました。その友人が「うちでも試してみる」と言って、野口さんのデータを自分のアカウントで入力してみたのです。

同じでした。

*このデータでは鑑定を行うことができません。*

では、と友人は自分のデータを入力しました。

普通に、結果が出ました。

もう一人の友人のデータも試しました。

普通に出ました。

野口さんのデータだけが、何度やっても、誰のアカウントからやっても、どのシステムでやっても、拒否される。


私はここで、可能性をいくつか検討しました。

一つ目。システムのバグ。特定のデータの組み合わせで処理が失敗するパターン。1990年8月14日午前2時17分という入力が、何らかのエッジケース(想定外の境界値)を踏んでいる可能性。

これは、ありえます。ソフトウェアには必ずそういう盲点があります。

ただ、私が少し調べたところ、同じ生年月日の別の人物がいくつかのサービスで正常に鑑定を受けられていることが確認されました。データの組み合わせ自体に問題はない。

二つ目。野口さんが過去に何らかの形でシステム側にブラックリスト登録された可能性。

これも、調べました。野口さんは規約違反をした形跡がない。そもそも、複数の無関係なサービスで同時にブロックされることは、通常ありえません。

三つ目。

これは、私が記録として残すべきかどうか迷った可能性です。


占いのシステムは、データを学習して動いています。

大量の人物データ――名前、生年月日、時刻、そしてその人の「その後」――を学習して、パターンを読み取り、運勢を出力する。

私が気になったのは、AIがなぜ「鑑定できない」と判断するか、です。

通常、入力データが正常で、処理に問題がなければ、何らかの結果が出ます。「運勢が良い」でも「注意が必要」でも、何かが出る。

何も出せない、ということは。

システムが参照するデータの中に、野口さんに対応するパターンが存在しない。

つまり、「この先」のデータが、どこにも存在しない。


野口さんは今も元気に働いています。

私はそれを確認しています。少なくとも、現時点では。

ただ、AIはそもそも、「現在」を見ていません。

AIが参照するのは、過去のデータと、そこから導かれる未来のパターンです。過去の無数の人が「こういうデータのとき、その後こうなった」という蓄積から、次の展開を推測する。

野口さんの「その後」が、データベースのどこにも存在しない。

それはつまり。

パターンとして存在しないほど、短い「その後」なのか。

あるいは。

パターンとして存在しないほど、特異な「その後」なのか。


私には、判断できません。

ただ、記録として残しておきます。

野口さんは先月、久しぶりにまた試したそうです。新しく出た、精度が高いと評判のサービスで。

結果は、出ませんでした。

今度はエラーメッセージすら表示されなかったと、彼女は言っていました。

入力して、送信したら。

画面の向こうが、ただ、静かになったと。


*記録日:サブレ データ分類:未確定*



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