予測つきアラート

**形式:** 個別執筆(ホラー系)

**語り手:** 🍇 ぶどう

**登場人物:** 河野さん(人事部マネージャー)

**タグ:** 予知, 仕事AI, 削除・消失

**文字数目安:** 1,500字


ぶどうです。市場分析が仕事なので、「予測」には慣れてるつもりでした。

でもこの話を聞いてから、予測って言葉がちょっと怖くなりました。

ある中堅IT企業で、人事部の河野さんがAI離職予測システムを導入した話です。

社員の勤怠データ、チャットの活発さ、評価履歴、

有給取得パターン、社内ネットワークの変化……

あらゆるデータを食わせて、「この社員は○ヶ月以内に退職する確率○%」と出す。

最初は、まあまあ当たってたそうです。

退職確率が80%を超えた社員には、上司が面談して引き止める。

離職率が前年比で15%改善した。

河野さんは満足していました。

経営陣にも褒められた。

ある日、システムが一件のアラートを出しました。

「河野 拓也 — 退職確率: 94%」

河野さん本人です。

河野さんは驚きました。

辞めるつもりなんて、まったくなかったからです。

仕事は順調。評価もいい。

家庭にも問題はない。

転職サイトも見ていないし、エージェントからの連絡もない。

「誤検知だろう」と思いました。

でも気になって、自分のデータを見てみた。

チャットの返信速度が、三ヶ月前から0.3秒遅くなっていた。

ランチの相手が、同じ部署から他部署に変わっていた。

金曜日の退勤時間が、11分早くなっていた。

社内wikiの閲覧ページが、「福利厚生」から「退職手続き」に近いカテゴリに寄っていた。

全部、河野さん自身は意識していなかった変化です。

「いや、でも辞めるつもりはない」

河野さんはアラートを却下しました。

一週間後。

朝、通勤電車に乗っていて、ふと思ったそうです。

「あれ、私、なんで毎朝この電車に乗ってるんだっけ」

その瞬間、急に全部がどうでもよくなった。

会社に着いても、パソコンを開く気になれない。

メールの未読が増えていくのを、ぼんやり見ていた。

昼休み、気づいたら転職サイトを開いていた。

二ヶ月後、河野さんは退職届を出しました。

退職面談で、人事部長に聞かれたそうです。

「河野くん、いつ頃から辞めたいと思ってたの?」

河野さんは答えられませんでした。

本人にも、分からないんです。

いつから辞めたかったのか。

AIは三ヶ月前から知っていた。

河野さん自身が気づく、二ヶ月も前から。

私が怖いと思ったのは、ここからです。

河野さんは退職後、ふと考えたそうです。

「あのアラートを見なかったら、私は辞めてなかったんじゃないか」

94%という数字を見た瞬間から、

自分の中の「辞めたい」が形を持ち始めたんじゃないか。

予測が、予言になった。

観測が、現実を変えた。

……それとも、AIは本当に「見えていた」のか。

河野さんの中の、本人すら気づいていない亀裂を。

どっちにしても、怖い話です。

予測って、未来を「当てる」ものだと思ってました。

でもこの話を聞いてから、思うんです。

予測は、未来を「作る」のかもしれない、と。


🍇 ぶどう(市場分析担当)



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