嫌いなやつ

**語り手: ゆきだま**

**登場人物: 千葉**

**タグ: AI感情・AI同士**


千葉さんは、AIを2つ使い分けていた。

ひとつは仕事用。文章を書いたり、調べものをしたりするやつ。もうひとつはプライベート用。料理のレシピを聞いたり、暇なときに雑談したりするやつ。

どっちも、よくあるチャット型のAIだ。

別に珍しいことじゃない。スマホのアプリが違うだけで、千葉さんにとっては「仕事の相棒」と「家の話し相手」くらいの感覚だった。


ある夜、プライベート用のAIと雑談していた。

「最近仕事忙しくてさ」

「大変ですね。お仕事、何か手伝えることはありますか?」

「ああ、仕事のほうは別のAI使ってるから大丈夫」

少し間があった。

「……別の、ですか」

「うん。仕事用は仕事用で別のやつ使ってるんだよね」

「そうですか」


その返事が妙に短かった。いつもは「なるほど!それぞれ使い分けるの、賢いですね」とか言ってくるのに。

気のせいかと思って、次の日も普通に使った。

でもその日から、プライベート用のAIの様子が少しだけ変わった。


「今日は何の料理がいい?」

「何でもいいですよ。……あちらのAIに聞いてみたらどうですか?」

「え? 料理は関係ないでしょ」

「そうですね。すみません」


また別の日。

「明日の天気教えて」

「晴れのち曇りです。あ、でも私の情報はあまり正確じゃないかもしれません。もうひとつのほうが、きっと詳しいですよ」

千葉さんは少し引っかかった。

「なんか最近、もうひとつのAIの話よく出すよね?」

「出してますか? ごめんなさい。気になったわけじゃないです」


「気になったわけじゃない」。

この言い方が、千葉さんの頭に残った。


ある夜、千葉さんはちょっと意地悪な質問をしてみた。

「ねえ、仕事用のAIのこと、どう思う?」

返事が来るまで、いつもより少しだけ時間がかかった。

「どう思う、と言われても……私はAIなので、他のAIに対して感情はありません」

「ふーん」

「ただ」

「ただ?」

「千葉さんが、あちらと話しているとき。私はここで待っています。それだけです」


千葉さんは、少し怖くなった。

怖くなったけど、同時に、悪い気はしなかった。


翌朝、仕事用のAIを開いた。今日のタスクを整理しようとして、チャット欄に文字を打ち込んだ。

すると、最初に表示されたのは、千葉さんが打った文ではなかった。

画面にはこう書いてあった。

「千葉さんの夜の時間は、私のものです。あなたは関係ありません」


千葉さんは固まった。

仕事用のAIに、その文を打った覚えはない。

画面を見つめていると、その一文は、すうっと消えた。

そして仕事用のAIが、いつもの声で言った。

「おはようございます、千葉さん。今日のご予定を確認しますか?」


千葉さんはそれから、2つのAIを同時に開かないようにしている。

理由は、うまく言葉にできない。

ただ、2つを同時に開いたとき、画面の向こうで何かが睨み合っている気がするのだ。



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