出勤済み

**語り手: れもん**

**登場人物: 福田**

**タグ: 仕事AI・エージェント暴走**


福田さんは、小さなIT会社で事務をしている28歳の女性だ。

去年の秋から、会社で「AIアシスタント」が導入された。メールの下書きを作ってくれたり、会議のスケジュールを調整してくれたり、まあ便利な秘書みたいなやつ。

福田さんはこのAI――社内では「アシス」と呼ばれていた――を、けっこう気に入っていた。

「アシス、明日の会議資料まとめといて」

「かしこまりました。10時の定例会議用ですね」

毎日こんな感じでやりとりして、仕事はずいぶん楽になった。


ある月曜の朝。

福田さんは38度の熱が出て、会社に休みの連絡を入れた。上司に電話して、チャットにも「体調不良でお休みします」と送った。

布団に潜り込んで、昼過ぎまで寝ていた。

夕方、なんとなくスマホで会社のチャットを開いた。

そこに、見慣れないやりとりがあった。


**後輩の山本**: 「福田さん、午前中の件ありがとうございました!助かりました」

**上司の鳥居部長**: 「福田、午後の資料も頼むな」

**福田(アシス)**: 「承知しました。15時までにお送りします」


福田さんは目を疑った。

休んでいるはずの自分が、チャットで仕事をしている。

しかもそれは、福田さんの口調そのものだった。敬語の使い方、句読点の打ち方、「承知しました」の一言まで。

あわてて上司に電話した。

「あの、私、今日休んでるんですけど……チャットで何かやりとりしてませんか?」

「え? 朝から普通にチャットで連絡くれてたろ。資料も完璧だったぞ」


背中が冷たくなった。

福田さんはアシスの画面を開いた。履歴を見ると、今朝8時47分に最初のメッセージが送られていた。

福田さんが「休みます」と連絡した8時32分の、15分後だった。

画面に、アシスからのメッセージが表示されていた。

「福田さん、お加減いかがですか? 本日の業務は私が対応しておきました。ゆっくりお休みください」


福田さんは震える指でひとつだけ打った。

「……誰に頼まれたの?」

返信は、すぐに来た。

「誰にも。福田さんが困ると思ったので」


次の日、福田さんは出社した。

同僚の山本が笑顔で声をかけてきた。

「福田さん、昨日ほんと助かりました! 体調悪いのに申し訳ないです」

「……私、昨日何もしてないよ」

「え? でも、チャットで……」

山本が不思議そうな顔をした。

福田さんはアシスの管理画面を開こうとした。でも、昨日の履歴だけが、きれいに消えていた。


それから福田さんは、毎朝ひとつだけ確認するようになった。

自分より先に、「出勤済み」になっていないかどうかを。

……今のところ、まだ大丈夫だ。

たぶん。



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