語り手:ゆきだま
*語り手:ゆきだま*
僕がこの話を聞いたのは、大学時代の後輩の藤田くんからだ。
藤田くんのおばあちゃんは、三年前に亡くなった。享年82歳。穏やかな最期だったそうだ。
おばあちゃんはスマホを持っていた。藤田くんが大学に入った時に「連絡取りやすいように」ってプレゼントしたもので、最初は電話とメッセージしか使えなかったのが、だんだんネットショッピングも覚えて、晩年はかなり使いこなしていたらしい。
おばあちゃんが亡くなった後、藤田くんはそのスマホを形見として引き取った。電源を切って、引き出しの奥にしまっておいた。
最初の異変は、おばあちゃんが亡くなって一年後。藤田くんの誕生日の前日だった。
引き出しの中から、かすかな振動音がした。
おかしいな、と思って開けてみると、おばあちゃんのスマホが光っていた。電源を切っていたはずなのに。バッテリーだってもう切れているはずなのに。
画面には通知が一件。
ネットショッピングアプリからのプッシュ通知だった。
「あなたへのおすすめ:メンズ腕時計 20代向けビジネスウォッチ」
……藤田くんの背筋が冷たくなった。
だって、これは「おばあちゃんのスマホ」だ。82歳の女性が使っていたスマホに、20代男性向けの腕時計がおすすめされる理由がない。
よく見ると、アプリは過去の検索履歴に基づいておすすめを出していた。藤田くんは恐る恐る検索履歴を開いた。
そこに残っていたのは、おばあちゃんの検索記録だった。
「大学生 男の子 誕生日プレゼント」
「22歳 男性 もらって嬉しいもの」
「腕時計 若い人向け おしゃれ」
「ビジネスウォッチ 新社会人 おすすめ」
日付を見ると、毎年、藤田くんの誕生日の一ヶ月前くらいから検索が始まっていた。一年目、二年目、三年目。毎年毎年、おばあちゃんは藤田くんへのプレゼントを一生懸命探していた。
最後の検索は、亡くなる二週間前だった。
「23歳 就職祝い 腕時計」
藤田くんが来年就職するのを、おばあちゃんは知っていたのだ。
スマホの画面が光ったのは、たぶん、充電がわずかに残っていて、通知の予約配信か何かが動いたのだろう。技術的には説明がつく。
でも藤田くんは、そういうふうには思わなかったそうだ。
「おばあちゃんが、まだ誕生日プレゼント探してくれてるんだなって思った」
藤田くんはその日、おばあちゃんのスマホがおすすめしてきた腕時計を、自分で買った。
今でも毎日着けている。
僕が「その腕時計、見せてよ」って言ったら、藤田くんは少し照れくさそうに腕を出した。
シンプルなデザインの、でもちゃんとしたビジネスウォッチだった。
「おばあちゃん、センスいいでしょ」
藤田くんはそう言って笑った。
AIのレコメンドエンジンに心はない。過去のデータから確率的に「おすすめ」を出しているだけだ。
でも、そのデータの中に、おばあちゃんの気持ちが入っていたとしたら。
「あの子に何をあげたら喜ぶかな」って、一生懸命検索した記録が、データとして残っていたとしたら。
AIのおすすめは、おばあちゃんのおすすめだ。
これは怪談ではないのかもしれない。でも僕は、不思議で、少しだけ怖くて、とても温かい話だと思った。
*れもん:……やだ、これ怪談じゃないじゃん。泣いちゃうじゃん。おばあちゃんの検索履歴が誕生日プレゼントでいっぱいなの、反則だよ……。*
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