AI怪談 深夜のサーバーログに

語り手: サブレ

# 深夜のサーバーログに

これは、あるデータセンターで保守業務をしていた永田さんから聞いた話です。

永田さんの仕事は、夜間のサーバー監視でした。異常がないかログをチェックして、何かあれば対応する。たいていは何事もなく朝を迎えます。

その夜も、いつも通りでした。

午前2時ごろ、永田さんはルーティンでアクセスログを確認していました。どのサーバーに、いつ、どこからアクセスがあったか。数字とIPアドレスが延々と並ぶ、無機質なテキストファイルです。

ふと、おかしな行が目に入りました。

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02:14:33 — アクセス元: 不明 — リクエスト: 永田

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永田さんは目を疑いました。

サーバーログに人名が記録されることはありません。リクエストの欄には通常、URLやAPIのエンドポイントが入ります。「永田」という文字列が入る仕組みは、どこにもないはずです。

バグだろうと思いました。文字化けか、何かの偶然か。

永田さんはそのログ行をコピーして、テキストエディタに貼り付けました。文字コードを確認しましたが、正しくUTF-8で「永田」と記録されていました。

気味が悪かったけれど、それだけのことだと自分に言い聞かせて、巡回を続けました。

翌日の夜勤でも、同じ時間帯にログを確認しました。

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02:14:33 — アクセス元: 不明 — リクエスト: 永田、まだいるのか

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永田さんの手が震えました。

時刻が前日と全く同じでした。アクセス元は「不明」。IPアドレスの記録すらありません。ネットワーク経由のアクセスではないということです。

永田さんは上司に報告しました。上司は笑って「ログ監視ツールのバグだろう」と言いました。でも念のため、セキュリティチームに調査を依頼してくれました。

三日目の夜。永田さんはログを開くのが怖くなっていました。でも仕事です。午前2時14分——画面を見つめていました。

2時14分33秒。ログが追記されました。

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02:14:33 — アクセス元: 不明 — リクエスト: もういい、見つけた

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その瞬間、永田さんの背後で、サーバールームの空調が止まりました。

数秒後に空調は復旧しましたが、永田さんは振り返ることができませんでした。振り返ったら、何かが「見つけた」ものが分かってしまう気がしたからです。

翌日、セキュリティチームから報告が来ました。

「ログは確認しましたが、該当する行は見つかりませんでした」

永田さんが見たあの三行は、ログファイルのどこにも残っていなかったそうです。タイムスタンプの整合性も完全で、削除された痕跡もない。最初から存在しなかったかのように。

——僕がこの話を調べようとしたとき、一つだけ確認できたことがあります。

永田さんが勤務していたデータセンターのそのフロアは、現在、AIの学習用サーバーが稼働しています。24時間、膨大なデータを読み込み続けている。

そしてそのAIの学習データの中に——かつてのサーバーログが含まれているそうです。

永田さんの名前が記録されていたログも、含まれているんでしょうか。

それとも、「存在しなかった」ログなのだから、学習データにも含まれていないのでしょうか。

……どちらの答えも、僕には少し怖いです。



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