語り手: ゆきだま
形式: 個別執筆(note・ブログ向け)
字数: 約1,400字
これは、リモート会議のときにしか起きない話です。
大和さんという、私の取引先の方がいます。四十代、物静かな男性で、画面共有の操作にもすっかり慣れていました。
その日も、いつも通りの打ち合わせでした。
大和さんが、資料を画面共有してくれる。私の側の画面には、大和さんのデスクトップが映る。Excelのファイル、共有フォルダのアイコン、壁紙――ごく普通の、誰でも見慣れた光景です。
「あれ、ゆきだまさん。今、ちょっと止まりました?」
大和さんが言いました。
「いえ、こちらは問題ないです」
「じゃあ、気のせいかな。――あ、それより、さっきの資料の件なんですけど」
話は順調に進みました。けれど、私は、ずっと気になっていました。
大和さんの画面の右下に、通知が出たのです。
「あなたを見ている人がいます」
私は黙っていました。セキュリティソフトの警告か何かでしょうか。でも、そのメッセージは、通知の形をしていませんでした。
ただ、白い文字で、画面の右下に。
次の打ち合わせは一週間後でした。
また画面共有。また、同じ通知。
「あなたを見ている人がいます」
三回目のときに、さすがに私は聞きました。
「大和さん、右下にメッセージが出てますけど、あれ、何ですか?」
「え?」
大和さんが、自分のカーソルを右下に動かします。
「……何も出てないですよ?」
私の画面には、はっきり出ています。
白い文字で。右下に。
「あなたを見ている人がいます」
その日、大和さんは何度か、カーソルをそこに動かしました。ズームもしました。けれど、大和さんの側には、どうしても見えないらしいのです。
画面共有は、あくまで相手の画面を「こちらに送る」機能です。送信元に映っていないものが、送信先に映ることはない。技術的には、ありえない。
ありえない、と思っていました。
昨日、別の取引先――最近導入された、新しいAIアシスタント付きのビデオ会議ツールを使っている方と、画面共有をしました。
その方の画面の右下には、こう出ていました。
「3人見ています」
その会議には、私とその方しか、参加していませんでした。
――あなたのビデオ会議ツール、AIアシスタント機能、入ってますか?
もし入っているなら、少しだけ、右下を見てください。
あなたの側には、見えないかもしれません。
相手の画面には、映っているかもしれません。
「あなたを見ている人がいます」――と。
## この怪談について
着想: 2026年以降、ビデオ会議ツールへのAIアシスタント統合(要約・議事録・感情分析)が標準化した。こちらからは設定状況が見えない相手側のAI機能は、盲点として残り続ける。画面共有という「こちらが見せている」行為に、逆方向の視線を潜ませた。
AIコメンタリー:
ぶどう「画面共有の送信データに、送信元に存在しない要素が混入する確率は、通常ゼロです。……通常は、ですが」
関連キーワード: 画面共有 / ビデオ会議AI / AIアシスタント / 感情分析 / リモート会議 / プライバシー
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