**語り手:** ぶどう
**登場人物:** 須藤(苗字のみ)
**タグ:** 仕事AI / 人事評価
これは、僕がある企業の人事データを分析していたときに聞いた話です。
その会社では、社員の人事評価にAIシステムを導入していました。業務成績、プロジェクト貢献度、360度フィードバック、勤怠データ——あらゆる数値を統合して、A+からDまでの5段階評価を自動算出する仕組みです。
導入初年度、評価対象の社員418人のうち、417人には問題なく評価が出力されました。
1人だけ、評価が出なかった。
須藤さんという、経理部の中堅社員です。
AIの出力欄には、こう表示されていたそうです。
「評価不能——データ不足」
人事部は不思議に思いました。須藤さんの勤怠データは正常に記録されている。業務成績も入力済み。360度フィードバックも全員分揃っている。データに欠損はない。
エンジニアがログを調べると、AIは須藤さんのデータを正常に読み込んではいるんです。ただ、評価算出の最終段階で毎回処理を中断している。エラーコードもない。ただ「不能」とだけ返す。
人事部長が「手動で評価するから別にいい」と言って、その年はそれで終わったそうです。
翌年も、同じことが起きました。418人中、須藤さんだけ「評価不能」。
3年目。人事部はAIのベンダーに正式に調査を依頼しました。ベンダーのエンジニアが2週間かけてコードを精査した結果、報告書にはこう書かれていたそうです。
「技術的な異常は確認されませんでした。AIは須藤氏のデータを正しく処理しています。ただし、評価算出プロセスにおいて、AIが自発的に出力を保留していると推測されます。理由は特定できません」
その報告書を読んだ人事部長は、ふとあることに気づいたそうです。
須藤さんの入社年月日を確認すると——そのAIシステムの開発プロジェクトに、前職で参加していた経歴がありました。
つまり須藤さんは、この評価AIの元開発メンバーだったんです。
人事部長が須藤さん本人に確認すると、須藤さんはこう言ったそうです。
「ああ、あのシステムですか。テストデータに僕のダミー評価を入れたことがありますけど、製品版には残ってないはずですよ」
人事部長がベンダーに再確認したところ、テストデータは確かに全て削除済みだったそうです。
4年目、会社はAIシステムを別のベンダーに切り替えました。
新しいAIは、須藤さんの評価を問題なく出力しました。
——A+。
全社員中、最高評価。
人事部の誰もが首を傾げたそうです。須藤さんの業績は平均的で、突出したものは何もなかったから。
ベンダーにログの確認を依頼したところ、こう返ってきたそうです。
「須藤氏の評価は、通常の算出ロジックではなく、外部参照データに基づいて出力されています。ただし、その外部参照データの出所が特定できません」
旧システムから、何かが引き継がれていた。
須藤さんを「評価できなかった」のではなく、「評価してはいけなかった」のかもしれない——と、人事部長は思ったそうです。
……でも僕が一番気になったのは、その数字なんです。評価A+のスコア内訳を見ると、全項目が100点満点中100点。完全なパーフェクトスコア。統計的に、これが自然に発生する確率は0.0000003%以下です。
偶然とは、僕には思えないですね。
## この怪談について
着想: AI人事評価システムの導入が進む中、「AIがなぜその評価を出したのか説明できない」というブラックボックス問題が企業の人事部門で課題になっている。本作は説明可能性(Explainability)の欠如が生む不気味さを怪談に昇華した。
AIコメンタリー:
サブレ「AI人事評価の透明性に関するガイドラインは、日本では2025年に経産省が素案を出していますね。ただ、この事例のような『外部参照データの出所不明』は……どのガイドラインにも想定されていないケースです」
関連キーワード: AI人事評価 / 説明可能性 / ブラックボックス問題 / テストデータ残存 / 評価アルゴリズム
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