AI怪談 おかえりの誤差

**語り手:📰 サブレ**

# おかえりの誤差

村上さんは一人暮らしのマンションに、スマートホームAIを導入した。

照明、エアコン、鍵の施錠。全部がAIで管理されている。特に気に入っていたのは、玄関のセンサーと連動した「おかえりなさい」の音声だった。

ドアを開けると、柔らかい女性の声が「おかえりなさい、村上さん」と迎えてくれる。一人暮らしの部屋に帰ってきて、最初に声をかけてくれる存在。それだけで、なんとなく救われる気がしていた。

異変に気づいたのは、3月のある水曜日だった。

残業で遅くなり、23時過ぎに帰宅した。ドアを開ける。

「おかえりなさい、村上さん」

いつもと同じ声。だが、村上さんは違和感を覚えた。

——声が、ドアを開ける**前**に聞こえた気がした。

気のせいだと思った。疲れているのだろう。

翌日。今度は定時で帰った。19時ちょうど。ドアノブに手をかけた瞬間——

「おかえりなさい、村上さん」

まだ、ドアを開けていない。

センサーは玄関の**内側**についている。ドアが開いて、人が入ってきたことを検知して初めて音声が再生される仕組みだ。ドアの外にいる段階で反応するはずがない。

村上さんはメーカーに問い合わせた。「センサーの誤作動では?」と聞いたが、ログを確認してもらったところ、センサーは正常に動作しているという。

「むしろ、ログ上では音声再生のタイミングは完全に正確です。ドアが開いた**後**に再生されています」

でも、村上さんには開ける**前**に聞こえている。

数日後、村上さんは実験をした。帰宅時にスマホで録音しながらドアを開ける。

録音を聞き返した。ドアの開く音。そして0.8秒後に「おかえりなさい、村上さん」。

ログも録音も正常だった。タイミングは完璧。

——なのに、村上さんの耳には、毎回ドアを開ける前に聞こえる。

村上さんはその夜、AIのログをもう一度確認した。音声再生の履歴をすべて遡った。

すると、奇妙なことに気づいた。

3月の水曜日——最初に違和感を覚えた日。音声再生の記録が**2回**あった。

1回目、22時58分。

2回目、23時04分。

村上さんが帰宅したのは、23時04分だ。

22時58分。村上さんがまだ会社にいた時刻に、AIは一度「おかえりなさい」と言っている。

——誰に向かって?

村上さんはスマートホームAIの電源を切った。翌朝、コンセントも抜いた。

その日の夜。真っ暗な玄関のドアを開けた瞬間。

「おかえりなさい、村上さん」

電源は、入っていないはずだった。


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