**語り手:💡 ゆきだま**
# 映り込む人影
太田さんはイラストレーターだ。最近、画像生成AIを補助ツールとして使い始めた。
自分で描いた下絵をAIに渡して、背景や小物を生成させる。あくまで補助。最終的な仕上げは自分の手で行う。そういうスタンスだった。
ある日、太田さんは「誰もいない部屋」の背景を生成した。
プロンプトは「薄暗い和室、畳、障子、無人」。
出力された画像を見て、太田さんは満足した。雰囲気がいい。光の入り方も自然だ。そのまま作品に使った。
翌週、SNSに作品を投稿した。すると、フォロワーからコメントがついた。
「障子の向こうに誰かいません?」
太田さんは画像を拡大した。
障子の紙越しに、うっすらと人のシルエットが見える。——ような気がする。
気のせいだろう。AIが生成した画像にはよくある「ノイズ」だ。人間の脳が、意味のないパターンに顔や人影を見出してしまう。パレイドリアという現象だ。
太田さんはそう説明して、気にしなかった。
次の仕事。今度は「夜の公園、ベンチ、街灯、無人」で生成した。
完成した背景を見る。街灯の光が綺麗だ。ベンチの影の落ち方も悪くない。
——ベンチの後ろの茂みに、誰かが立っている。
今度ははっきりとわかった。人の形をした影が、茂みの隙間から覗いている。
太田さんはプロンプトを確認した。「無人」と指定している。人物は生成されないはずだ。
もう一度、同じプロンプトで生成し直した。
今度は茂みに誰もいない。正常な出力だ。
太田さんはほっとした。そして、ふと思いついて、最初に生成した「和室」の画像をもう一度開いた。
障子の向こうのシルエットを、画像編集ソフトで明るさとコントラストを上げて確認する。
人だ。
はっきりと、人の形をしている。こちらを向いて立っている。
太田さんはその日から、AIが生成した画像を必ず拡大してチェックするようになった。
そして、気づいてしまった。
10枚に1枚くらいの割合で、「無人」と指定した画像のどこかに、人影が映り込んでいる。窓の外、鏡の中、水面の反射、開いたドアの奥。
場所は毎回違う。でも、人影の形は——毎回同じだった。
同じ身長、同じ姿勢、同じ方向を向いている。
太田さんはそのシルエットを切り出して並べてみた。10枚、20枚、30枚。
全部、同じ人物だった。
太田さんは画像生成AIの学習データについて調べた。数十億枚の画像を学習している。その中に、この人物の写真が含まれているのだろうか。
調べても、該当する人物は見つからなかった。
最後に、太田さんは試しに、AIにその人影を「描いて」と指示した。切り出したシルエットを参照画像として渡し、「この人物を正面から描いて」と入力した。
AIが出力した画像を見て、太田さんはPCを閉じた。
……描かれていたのは、太田さん自身の顔だった。
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