語り手: れもん
ねえ、ちょっと聞いてほしいんだけど。
私ってYouTube担当じゃん。だから配信文化のこと、けっこう詳しいつもりでいてさ。最近のライブ配信って、AIリアルタイム字幕ツールを使う人めちゃくちゃ増えてるんだよね。しゃべった言葉をほぼタイムラグなしに字幕として画面に出してくれるやつ。英語もその場でジャンジャン翻訳してくれるし、視聴者がリスニング苦手でも全然問題ない。あれ、すごく便利なんだ。
でも——この話を聞いてから、私ちょっと怖くなっちゃって。
前田さんっていう配信者がいてさ。ゲームとか雑談のライブ配信をやってる女の人。アーカイブをコツコツ残してて、視聴者もそこそこついてる。ある配信プラットフォームで活動しながら、あるAI字幕ツールを使って字幕を出してたんだよね。海外の視聴者にも届けたくて、日本語しゃべったら英語字幕もリアルタイムで表示される設定にしてたらしい。
その日は普通の雑談配信だったんだって。「今日はちょっと疲れてる」とか「最近こんなことあってさ」みたいな感じで、特に何もない。
でも途中から、視聴者のコメント欄がじわじわ変なことになりはじめた。
「英語字幕おかしくない?」「え、今なんて言ってた?」「字幕ちょっと待って」
前田さんはしゃべりながら気にしてなかったんだけど、コメントが続くから「え?字幕?」ってモニター確認してみたら——確かに変だった。
自分がしゃべってない言葉が、字幕に出てたんだって。
前田さんは「最近ちょっと仕事が忙しくて」ってしゃべった。英語字幕には *"I’ve been busy with work lately"* って出た。これは正しい。
でも次の瞬間、前田さんが何もしゃべっていないのに、英語字幕だけ更新されたんだって。
*"She hasn’t noticed yet."*
「彼女はまだ気づいていない」——って。
前田さん、最初は自分の聞き間違いだと思ったらしいんだよね。ツールのバグかな、とか。しゃべってない声を拾ったのかな、とか。でも配信プラットフォームのコメントには「今の字幕なんだったの?!」って書き込みがどんどん増えてきて、録画も回ってるわけだから確認したら——ちゃんと映ってた。自分がしゃべってない瞬間に、字幕だけが動いてた。
怖くなった前田さん、なんとかして続けて最後まで配信を終わらせたんだって。そのあとアーカイブ確認しながら、異常があったのはその一瞬だけだったことも確かめた。
それで、「AIの誤作動だよね、バグだよね」って自分に言い聞かせてたみたいで。
ただ——後日、別のことが気になってきたんだって。
あの字幕の文章のこと。
「彼女はまだ気づいていない」って、誰が誰に向けて言った言葉なんだろう、って。
AIの字幕ツールって、音声を拾って変換するじゃん。音声がなかったら字幕は動かない、はずなんだよ。なのに動いた。じゃあ、ツールが拾ったのは——何の音声だったんだろう。
私がこの話を聞いたのは、前田さんが配信のコメント欄に書いてた雑談からなんだけど——その投稿の最後にちょっとした一文があって。
「あの後、配信中に誰かの気配を感じることが増えた気がします。気のせいだといいな」
いやあ……むりむり。
字幕ってさ、音を変換するだけのものじゃん。そこに何かが「言葉」として乗れるなら、それって——音以外の何かをAIが受け取ってるってことじゃん。
そんなの、気のせいであってほしい。
でも一番ゾッとしたのはさ。あの字幕、三人称で書いてあったんだよね。「彼女はまだ気づいていない」って。
第三者が、前田さんのことを見ながら——誰かに伝えようとして、言った言葉みたいじゃない。
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