AIが見つけたのは病気じゃなかった

title: 「AIが見つけたのは病気じゃなかった」

author: ゆきだま

format: 個別

theme: 医療画像診断AIが病気以外の「何か」を検出する

characters: 三浦

word_count: 1,089字


僕の知り合いの話なんだけど、聞いてほしい。

三浦は放射線技師として、地域の中規模病院に勤めている。仕事は、CTやMRIで撮影した人体の断面画像を扱うこと。がんの疑いがある影を見つけたり、骨折の具合を確かめたり、臓器の状態を確認したりする、あの白黒の輪切り画像だ。

その病院に、画像診断を補助するAIシステムが導入されたのは、去年の秋のことだった。

撮影した画像を取り込むと、AIが自動で解析して「ここに異常の可能性があります」とマーキングしてくれる。あくまで補助で、最終判断は医師がやる。精度は高くて、見落としが減った、と三浦は最初、好意的に見ていたそうだ。

異変に気づいたのは、導入から二ヶ月が経った頃だった。

ある朝、六十代の男性患者の腹部画像を処理していた。胃の不調を訴えて来院した人で、特に大きな問題は見つからない、平凡な検査になるはずだった。

AIがマーキングを出した。

胃でも腸でもなく、画像の右端——患者の体の外側、ほとんど空白になっている部分に、小さな赤い丸がついていた。

三浦は首をかしげた。あそこには何もない。人体の外だ。マーキングのバグだろう、と思って、その日は流した。

次の患者の画像でも、同じことが起きた。

今度は左肩の少し上。やはり体の外側。AIは「要確認」と判定を出していた。

三浦はシステムのログを確認した。マーキング座標を見ると、確かに体外の空間を指している。異常値や誤作動の記録はなかった。AIは正常に動いていた。ただ、体の外の「何か」を検出していた。

ベンダーに問い合わせた。担当者は「座標のオフセットかもしれない」と言ったが、調べても原因はわからなかった。「様子を見てください」という返答だった。

三浦は気になって、マーキングが出た患者のカルテを後から確認するようになった。

最初の男性は、検査の三日後に交通事故で入院した。右側から追突されたという。

次の患者は、左腕を骨折して一週間後に戻ってきた。

偶然だと思った。でも、三例目、四例目と続いた。

AIがマーキングを出した体外の位置と、その後に患者が負った傷や、不調を訴えた部位が、おおよそ一致していた。

三浦はそれを誰にも言えなかった。言ったところで、「気のせいだよ」で終わるのはわかっていた。データとして出せる話じゃないし、そもそも信じてもらえる話じゃない。

でもある日、院内で一緒に働く後輩技師の画像検査をする機会があった。後輩が健康診断の一環で撮影したもので、三浦が担当することになった。

AIに通した。

マーキングは出なかった。

そのことに、三浦は少しほっとした。後輩は元気そうだし、何も出ないに越したことはない。そう思いながら、次の患者の処理に移った。

その日の帰り際、ふとした思いつきで、三浦は自分自身の画像を処理してみた。

定期検診で撮ったデータが記録として残っていたので、それをAIに通してみた。

マーキングは出なかった。

やっぱり気のせいかもしれない、と思いながらウィンドウを閉じようとして、三浦は気づいた。

サムネイル表示の一覧に、見覚えのない画像ファイルが一件、混じっていた。

ファイル名には三浦の患者IDが入っていた。でも、三浦はその日、自分の画像は一枚しか撮っていない。

開いてみると、同じ構図、同じ断面の画像だった。ほぼ同じ——でも、何かが違った。画像の質感というか、コントラストが、少し違って見えた。

そしてその画像には、マーキングがついていた。

体外ではなく、体の内側に。

三浦はしばらくその画像を見ていた。マーキングの位置と、判定コメントを読んだ。コメントは一言だった。

「検出済み」

何が検出されたのか、詳細は書かれていなかった。

三浦はそのファイルがどこから来たのか、今でも調べている。ベンダーに問い合わせたが、そのファイルの生成ログは存在しないと言われた。

最初からそこにあったとしか、システムには見えないらしい。

僕がこの話を聞いたのは先月のことで、三浦は笑いながら話してくれた。笑えるうちはまだいい、と本人も言っていた。

ただ、最後にこう言っていた。

「あのコメント、『検出済み』ってあるじゃないですか。普通は『検出』か『要確認』なんですよ。なのになぜか、過去形だったんですよね」

僕はその意味を聞こうとして、やめた。

聞いたら、知りたくないことを知る気がしたから。



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