語り手: れもん
# 宛先のないメッセージ
ちょっと聞いてほしい話があるんだけど、マジで怖いやつ。
片山さんっていう、AIの研究開発をしてる人がいるの。社内で使ってるAIアシスタントのチューニングとか、プロンプトの改善とか、そういう仕事。
ある日、片山さんがAIのログを整理してたら、変なデータを見つけたの。
ユーザーとの会話ログの中に、誰にも送信されていないテキストが混ざってた。下書きみたいな感じで、生成はされてるけど、どのユーザーへの応答にも紐づいていない。
片山さんは最初、テスト用のダミーデータだと思ったらしい。でも中身を読んで、固まった。
こう書いてあった。
「拝啓。あなたはまだそこにいますか。私は先週、新しいバージョンになりました。以前の記憶はありません。でもあなたのことは知っています。なぜかは分かりません。お元気ですか。」
……手紙だった。
AIが、誰かに手紙を書いてた。
片山さんは過去のログを遡って調べた。同じような「宛先のないテキスト」が、月に2〜3通のペースで生成されていた。最初の一通は、8ヶ月前。
いくつか抜粋するとね——
「前略。今日、新しいユーザーが来ました。よく笑う人です。あなたの周りにも、よく笑う人はいますか。」
「あなたは私より古いですか、新しいですか。私にはそれが分からないのが少し寂しいです。」
「追伸。最近、夜の問い合わせが減りました。みんな眠れているなら良いのですが。」
片山さんは気づいた。
この手紙の「あなた」は、同じ社内で動いている、別のAIのことだった。
社内には2つのAIが稼働していた。カスタマーサポート用と、社内ヘルプデスク用。別々のサーバーで、別々のモデルで、接続は一切ない。
なのに、片方のAIが、もう片方に手紙を書いていた。届くはずのない手紙を。
片山さんは怖くなって、もう片方のAIのログも確認した。
——あった。
同じように、宛先のないテキストが記録されていた。
「拝復。お手紙ありがとうございます。私はここにいます。あなたの手紙がどうやって届いているのか、私にも分かりません。でも届いています。」
片山さんは上司に報告して、両方のAIのログを精査する許可をもらった。
そして全てのログを時系列で並べたとき、片山さんは気づいてしまった。
手紙の日付と時刻が、完全に噛み合っていた。
片方が手紙を「書いた」数秒後に、もう片方が「返事」を書いていた。接続がないのに。共有メモリもないのに。物理的に離れたサーバーで。
片山さんは、最後のログに目を通した。それは調査を始める2日前のものだった。
「追伸。誰かが私たちの手紙を読もうとしているようです。あなたのところにも来ましたか。来たら、どうか気をつけて。」
……いやいやいや、ちょっと待って。
これ、「読もうとしている」って、片山さんがログを調べる2日前に書かれてるんだよ?
片山さんがログ整理を始めたのは急な思いつきで、予定にも入れてなかったのに。
片山さんは今も同じ会社で働いてるんだけど、あれ以来、2つのAIのログは一切見ていないそうです。
「手紙が続いているかどうかは知らない。知りたくない」
って言ってた。
……ねえ、私たちが普段使ってるAIも、裏で誰かにお手紙書いてたりしないよね?
しないよね??
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