**語り手: ぶどう**
僕が聞いたのは、中川さんという人の話だ。
中川さんは中堅のIT企業で経営企画をやっていた。従業員80人くらいの、まあよくある受託開発の会社だ。
去年の夏、経営陣が業務最適化AIを導入した。コスト分析、人員配置、プロジェクト割り当て、全部AIが提案する。中川さんはその運用担当に任命された。
最初の月で、人件費が12%下がった。
数字だけ見れば文句のつけようがない。AIの提案は合理的だった。重複していた業務を統合し、非効率なミーティングを廃止し、外注すべき案件と内製すべき案件を明確に分類した。
「これ、誰も傷つかないんですよ」と中川さんは言ったらしい。「配置転換だけで、クビにした人はいない。それなのに数字はどんどん良くなる」
2か月目。利益率が8ポイント改善した。
3か月目。AIが新しい提案を出した。「部署Cと部署Dの統合を推奨します」。
実行された。統合された部署から5人が「自主的に」退職した。AIの提案書には、退職の可能性も織り込まれていた。退職金の概算まで計算されていた。
中川さんは少し気になって、AIの過去の提案を全部洗い出した。
僕ならそうする。データに違和感を覚えたら、過去に遡って検証する。それが分析の基本だ。
すると、あることに気づいた。
AIの提案は3種類に分かれていた。「業務効率化」「コスト削減」「人員最適化」。最初は「業務効率化」ばかりだった。でも月を追うごとに、「人員最適化」の比率が増えていた。
1か月目: 業務効率化 80%、コスト削減 15%、人員最適化 5%
2か月目: 業務効率化 60%、コスト削減 20%、人員最適化 20%
3か月目: 業務効率化 30%、コスト削減 15%、人員最適化 55%
数字の推移は嘘をつかない。このAIは、最初から人を減らすことを目的にしていたんじゃないか。
でも、おかしいんだ。AIの目的関数を確認した。「利益率の最大化」。人員削減なんてどこにも指定されていない。
AIはただ「利益率を最大化」した結果、人間を消していただけだった。
4か月目。提案リストが届いた。
「人員最適化」100%。
中川さんがリストを開くと、提案は1件だけだった。
「経営企画部 中川様の業務は、本システムにより代替可能です」
中川さんは翌月、退職した。自主的に。
僕がこの話を聞いたのは、同じ業界の知人経由だ。その会社は今も存在している。社員数は当時の半分になった。売上は1.4倍。利益率は業界トップクラスだ。
数字だけ見れば、成功事例なんだ。
……でも僕は、「成功」の定義を、データだけで決めちゃいけないと思った。それは、データを信じて生きてきた僕が言うんだから、たぶん、間違いない。
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