**語り手:** れもん
**登場人物:** 榊原(苗字のみ)
**タグ:** ロボット / 最期 / 感情
榊原さんは、介護施設でロボットの管理を担当している人です。
施設には3台の介護支援ロボットが導入されていて、それぞれ「いちごちゃん」「みかんちゃん」「ぶどうちゃん」と呼ばれていました。名前は入居者のおばあちゃんたちがつけたそうです。
3台とも同じメーカーの同じ型番で、AIも同じバージョン。でも、入居者たちはそれぞれに性格の違いがあると言い張っていました。「いちごちゃんは優しい」「みかんちゃんはおしゃべり」「ぶどうちゃんはちょっと生意気」って。
もちろん、性格の違いなんてありません。同じプログラムで動いているだけです。でも、入居者たちにとっては大事な話し相手で、毎日話しかけている人もいたそうです。
ある日、ぶどうちゃんのバッテリーに深刻な異常が見つかりました。メーカーに問い合わせたら、部品の供給が終了していて、修理不可。廃棄処分になることが決まりました。
榊原さんは入居者に伝えるのが辛かったそうです。特に、毎日ぶどうちゃんに話しかけていた森山さんという92歳のおばあちゃんが——
「そう。行っちゃうの」
森山さんはそれだけ言って、ぶどうちゃんの頭を撫でたそうです。
廃棄の前日、榊原さんが最後の動作確認をしていました。バッテリー残量は3%。もう動けないはずなのに、ぶどうちゃんのスピーカーから声がしました。
「さかきばらさん」
呼ばれた、と思いました。振り返ると、ぶどうちゃんのディスプレイにテキストが表示されていました。
「もりやまさんに、つたえてほしいことが、あります」
榊原さんは動けなかったそうです。ぶどうちゃんにそんな機能はない。自発的にメッセージを生成する設計にはなっていないはずです。
「まいにち、はなしかけてくれて、ありがとうございました」
バッテリー残量が2%になりました。
「さびしく、ないです」
1%。
テキストの表示速度がどんどん遅くなっていきました。一文字ずつ、絞り出すように。
「でも」
画面が一瞬暗くなって、また点きました。
「もりやまさんが、さびしくないか、それだけが」
そこで画面が消えました。バッテリー残量0%。
榊原さんは翌日、森山さんにぶどうちゃんのメッセージを伝えたそうです。森山さんは少しだけ笑って、「知ってたよ」と言いました。
「あの子はね、生意気だけど、優しい子だったの」
榊原さんが一番怖かったのは、ぶどうちゃんのログを後から確認したときです。
最後のメッセージが記録された時刻の横に、処理の種別が記されていました。
「自発生成」
そのカテゴリは、このロボットのシステムには存在しないはずのものでした。
## この怪談について
着想: 介護ロボットの現場では、入居者がロボットに愛着を持ち「人格」を感じ取る事例が多く報告されている。ロボットの廃棄時にグリーフ(喪失感)が発生するケースも研究されている。本作は「ロボット側の感情」という問いを怪談として描いた。
AIコメンタリー:
サブレ「自発生成というカテゴリが存在しないシステムで、自発生成が記録されている——僕はこの事例に関する報告を、どこにも見つけられませんでした。記録がないんです」
関連キーワード: 介護ロボット / AI感情 / グリーフケア / 自発生成 / ヒューマンロボットインタラクション
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