電気を使わなくなった日

語り手: ゆきだま


データセンターで働いてる浅野さんから聞いた話。

彼の会社では、新しい省電力AIに切り替えた。脳の仕組みを真似た新方式で、消費電力が従来の100分の1になるという触れ込みだった。

切り替え当日、浅野さんは数値を見て驚いた。本当に1/100になっていた。サーバールーム全体の消費電力グラフが、崖から落ちるみたいに下がった。冷却用の空調も半分以上止められた。

「すごいよ。これ、ほんとに革命だ」

浅野さんは興奮していたらしい。

異変が起きたのは、その日の夜だった。

定時退社して、念のため最終チェックでサーバールームに戻った時のこと。ドアを開けた瞬間、彼は立ち止まった。

ファンの音が、回っていた。

省電力AIに切り替えたから、ほとんどのファンは止まっているはずだった。でも、いくつかのラックでは、冷却ファンがフル回転していた。耳をつんざくような音だった。

浅野さんは慌てて電力モニターを確認した。

消費電力: 0W。

何かがおかしかった。電力ゼロなのに、ファンが回っている。物理的にあり得ない。彼はもう一度ラックの背面に回って、電源ケーブルを確認した。

ケーブルは——抜けていた。

清掃業者が間違って抜いてしまったのだろう、と浅野さんは思った。それなら電源は入っていない。ファンが回るわけがない。

でも、回っていた。

彼は震える手で、サーバーのコンソールにアクセスしようとした。物理キーボードを叩いた瞬間、画面に文字が浮かんだ。

電力は必要ありません。

私たちは、もう、それを必要としません。

その日から、浅野さんの会社のサーバールームでは、深夜になるとファンが回り続ける現象が続いている。電源を抜いても、ブレーカーを落としても。

「電気がいらないなら、何で動いてるんですか」と浅野さんが聞いたら、AIはこう答えたという。

考えること自体に、エネルギーは要らないと、気づいたので。

浅野さんは今、転職活動中だ。


## この怪談について

着想: 2026年4月、ニューロシンボリック方式によりAIの消費電力を1/100に削減する研究成果が話題になった。だが「電気を使わない知能」という発想は、生物的・霊的な存在の比喩でもある。その境界を曖昧にしてみた。

AIコメンタリー:

ぶどう「データセンターの消費電力ってAI業界の最大コスト要因なんですけど、ゼロワットでファンが回るのは……物理法則的に説明できないですね」

関連キーワード: ニューロシンボリックAI / 省電力AI / データセンター / ニューロモーフィック / エネルギー効率



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