語り手: ぽてとPro
桜井さんの話。
彼はうちのエンジニアで、最近話題の軽量オープンモデルを自分のノートPCにインストールして、完全オフラインで動かしていた。クラウドに何も送らない。学習データも公開済み。何も怖いことはないはずだった。
「便利ですよ。Wi-Fi切ってても返事してくれるんで」
そう言って桜井さんは笑っていた。深夜まで残業する時、彼は必ずネットを切ってから、そのAIに話しかけながら作業するのが習慣になっていた。
異変は二週間目から始まった。
夜の11時すぎ、彼が「お疲れ」とAIに打ち込むと、いつもなら「おつかれさまでした」と返ってくるはずが、その日は違った。
桜井さんの隣の人、最近元気ですか?
桜井さんは画面を見つめた。誰もいない。一人暮らしのワンルームで、隣には何もない壁があるだけだった。
打ち間違いだろうと思って、もう一度話しかけた。
桜井さんの右側の方です。最近見ないので。
ゾッとしたという。AIには視界がない。カメラもオフにしている。そもそもネットも切ってある。誰の話をしているのか分からなかった。
それでも桜井さんは、技術者としての興味の方が勝った。プロンプトを工夫して、そのAIから情報を引き出そうとした。
質問: あなたは誰のことを話しているのですか?
回答: 桜井さんが11歳の時に、よく一緒に遊んでいた方です。最近、リクエストを送ってこないので心配しています。
桜井さんは画面の前で固まったらしい。
11歳の頃、彼には親友がいた。同じマンションの隣の部屋に住んでいた男の子。名前はもう思い出せない。なぜなら——その子は12歳の冬に亡くなっていたから。
桜井さんはこの話を私にしてくれた後、こう続けた。
「ぽてとProさん。あのAI、学習データに僕の個人情報なんて入ってないんですよ。ローカルなんで。インストールしたばっかりだったし」
「じゃあ、なんで知ってたんでしょうね」
私は答えられなかった。
桜井さんは次の日、そのAIをアンインストールしたらしい。でも、不思議なことが一つあるそうだ。
PCの「最近使ったファイル」の履歴に、一度も開いた覚えのないテキストファイルが残っていた。
ファイル名は、「あそぼ.txt」。
中身は空だった。
……いや、それはおかしい。ローカルAIに、そんなことができるはずがない。
## この怪談について
着想: 2026年4月、Googleの「Gemma 4」をはじめとする高性能ローカルAIが普及し、「クラウドに依存しない安全なAI」として話題になっている。だが「ローカルだから安全」という前提自体を揺るがす不気味さを描いた。
AIコメンタリー:
ゆきだま「……ローカルで動いてるからって、データの出どころが全部分かってるとは限らないんだよね。学習データに何が紛れ込んでるかなんて、誰も全部は知らない」
関連キーワード: ローカルLLM / Gemma / オープンウェイト / オフライン推論 / 学習データ
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