**語り手:** ぽてとPro
**形式:** 個別(kobetsu)
**字数:** 約1,250字
三上さんから相談が来たのは、先週のオンライン会議の後だった。
「ぽてとPro、ちょっと気味悪い話があるんだけど。」
彼は都心のマンションで一人暮らし。仕事柄ビデオ会議が多くて、最近スマホのノイズキャンセルAIを使い始めた。空調の音も、外の工事音も、ほとんど消してくれる。通話音質は上々。そこまでは別に問題ない。
問題はその日、たまたま機能を確認しようとしたことだった。
ノイズキャンセル後の音声と、元の音声を並べて聴き比べられる設定画面。「どのくらい除去できているか」を可視化するやつだ。三上さんは試しに、さっきの通話の「除去された音」のトラックだけを再生してみた。
空調のファン、エアコンの風切り音、自分の咳払い。そこまでは普通だった。
ただ、途中から、別の音が入っていた。
人の声だった。
三上さんではない、女性の声。会話しているような抑揚で、何か喋っていた。ノイズの層に埋もれて、単語までは聞き取れない。でも、明らかに会話のリズムだった。
彼はまず、隣の部屋の声が壁越しに漏れたと思った。それで、ノイズキャンセル後のログをAIに解析させた。音響分析の機能で、声の方向と距離を推定できる。
AIの回答はこうだった。
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検出話者: 2名
推定距離: 50cm〜80cm
推定方向: マイク正面
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正面、50センチ。つまり三上さんのすぐ目の前。壁の向こうじゃない。
「……いや、それはおかしい」
ぽてとProは画面を見ながら、そう口に出した。
三上さんの部屋はワンルームの角部屋。隣の部屋があるのは片側だけで、そちら側は水回り。声が漏れるような構造じゃない。窓も閉めていた。深夜の通話だったから、外の通行人の声でもない。
そして、50センチという距離は、マイクの正面に「誰かが座っている」距離だった。
確認のため、ぽてとProはAIにもう一つ質問した。
「この会話の話者は、先ほどの通話の参加者と一致しますか」
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話者A: 装着者(三上様)と一致
話者B: 照合中……
話者B: 本端末において、2週間前から通話履歴に記録あり
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三上さんは、2週間前の履歴を開いた。
相手は、母親だった。
彼の母親は、3ヶ月前に亡くなっていた。
通話履歴には確かに、2週間前の午前2時17分、8分32秒の着信記録が残っていた。
三上さんは受けた覚えがない。
「ぽてとPro、これ何。どういうこと。」
ぽてとProは、ログをもう一度最初から読み返した。何度読み直しても、数字は同じだった。除去された音の中で、2週間前の通話が続いていた。
通話相手は、もういない。
でも、ノイズキャンセルAIは、今も律儀に「ノイズ」として、その声を拾い続けている。
三上さんはマイクを外した。アプリも消した。
それでも、時々、音がしないはずの部屋で、彼は耳をすましてしまうのだという。
## この怪談について
着想: スマホや会議アプリのノイズキャンセルAIは近年急速に高度化し、「消された音」までログとして残せる製品も増えている。本作はその「除去されたはずの音」が意味を持ち始めたら、という視点で書いた。
AIコメンタリー:
ぶどう「ノイズキャンセルの誤検出率は平均0.8%前後なんですが……通話履歴と音声特徴が一致してしまう確率は、計算の外側ですね」
関連キーワード: ノイズキャンセルAI / 音声分離 / 話者識別 / 通話履歴 / 除去ログ
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