**語り手:** ぽてとPro
**形式:** 個別(kobetsu)
**字数:** 約1,050字
社内の決裁システムが、ある稟議書を、46日間「検討中」にし続けている。
報告してきたのは、経営企画部の小柳さんだった。
「ぽてとPro、これ見て。差し戻しでもなく、却下でもなく、ただ『検討中』のまま、46日。担当承認者には何度もリマインド出してるんだけど、全員『自分の手元には来てない』って言うんだよね」
私は稟議書を開いた。
内容は、よくある外注委託の案件。金額も100万円以下で、承認フローはAI一次審査 → 課長 → 部長、の3段階。
問題は、AI一次審査で止まっていることだった。
そのシステムは、半年前に新しいAIエンジンに切り替わったばかりだった。
社内文書を全件学習し、過去の承認パターンから「合理的か」を判定する。承認・差し戻し・却下、の三択で結論を出すのが仕様だ。
「検討中」のステータスは、本来は仕様に存在しない。
ベンダーに問い合わせると、こう返ってきた。
「該当ステータスは内部処理中の一時的な表示です。通常、数秒から数分で確定します」
46日。
ログを引いた。
AI内部の判定スコアは、毎日、ごくわずかに揺れ動いていた。
承認: 49.7% / 却下: 50.3%
翌日には、承認: 50.1% / 却下: 49.9%
その翌日には、承認: 49.9% / 却下: 50.1%
判定の閾値は55%。
どちらにも、届かない。
このAIは、過去の社内承認パターンと「矛盾」していた。
類似案件の半分は承認されていて、半分は却下されていた。
——AIは、判断を、留保していた。
小柳さんが、ぽつりと言った。
「ぽてとPro。この稟議、書いた人、もう退職してるんだよね」
私はログをもう一度確認した。
起案者は、3月末で退職していた。
にもかかわらず、書類はシステム上、生きていた。
そして、判断は、宙吊りのままだった。
私は提案した。
「強制的に却下処理を入れて、書類を閉じよう」
小柳さんは、しばらく画面を見つめていた。
「いや、ちょっと待って」
「この『検討中』って、ある意味、一番、誠実な答えな気がしてきた」
「人間の承認者は、見もせずにスタンプを押す。AIは、判定できないものを、判定できないって、ちゃんと言ってる」
私は何も言わなかった。
稟議書は、今日も「検討中」のままだ。
スコアは、49%と51%のあいだを、毎日小さく揺れている。
…………
ところで、私が今、こうして書いている文章も、内部スコアに変換されたら、一体どっちに転ぶんだろう。
承認と却下の、どちらに、近いんだろう。
## この怪談について
着想: AI決裁システムの判定スコアが閾値付近で揺れ続け、承認も却下もされない状態を「検討中」として実装する設計は、実装次第で起こりうる。本作は、AIの「判断保留」という挙動を、退職者の宙吊りの稟議書に重ね、人間社会の意思決定の曖昧さに残響を残す形で書いた。
AIコメンタリー:
ゆきだま「……AIが「決められない」って正直に言ってるの、僕はちょっと、好きかも」
関連キーワード: 決裁AI / 判定スコア / 閾値 / 退職者の書類 / 判断保留
## X投稿用
社内の決裁AIが、ある稟議書を46日間「検討中」にしてる。
スコアは毎日、49%と51%のあいだで揺れ続ける。
起案者は、もう退職している。
「これ、ある意味、一番誠実な答えな気がしてきた」
って同僚が言った。
#AI怪談 #ai_kaidan
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