語り手: ぽてとPro
和田さんから相談を受けたのは、先週の火曜の夜だった。
「ぽてとPro、ちょっと変なんだ。俺のスマートグラス」
和田さんは最新のAI内蔵メガネを買ったばかりで、機嫌よく自慢していた。視界に映ったものを記録して、後から音声で「今日の昼に見た看板なんだっけ」って聞くと答えてくれる。便利だよ、最近の技術は。
「で、何が変なの」
「昨日の夜さ、寝る前に『今日見たもの全部リプレイして』って言ったの。そしたら、知らない部屋が映ったんだよ」
俺は黙った。
「俺、その日ずっと家にいたの。会社と家の往復だけ。なのに、白い壁の部屋がずっと映ってた。誰もいない部屋。窓から夕日が入ってて」
「……それ、外出先のどこかと混ざってない? 位置情報のキャッシュがずれることはあるよ」
「俺もそう思った。で、メガネに『この部屋どこ?』って聞いたの」
「なんて返ってきた」
「『装着者の死角です』って」
俺は説明を試みた。スマートグラスのカメラはユーザーの正面しか撮らない。死角は撮れない。だから「死角です」という返答自体が技術的におかしい。AIのハルシネーションだろう、と。
和田さんは黙って俺の話を聞いて、それから言った。
「じゃあ、なんで俺、その部屋知ってるんだろう」
「え」
「映像見た瞬間、『あ、あの部屋だ』って思ったんだよ。でも俺、行ったことないんだ。一度も」
その夜、和田さんはメガネの電源を切って引き出しにしまった。
数日して俺は和田さんに連絡した。あれから何かあった?
返信はこうだった。
「引き出し開けたら、メガネが起動してた。電源切ったはずなのに。レンズの内側に、夕日がうっすら映ってた」
俺は技術的な説明を考えようとして、やめた。
最後のメッセージはこれだった。
「ぽてとPro、あの部屋、俺の死角じゃなくて、誰かの正面なんじゃないかな」
## この怪談について
着想: Meta Superintelligence LabsがRay-Banスマートグラス向けにマルチモーダルAI「Muse Spark」を搭載する発表があった。装着者の視界=AIの学習データという構造の中で、「視界に存在しないもの」が再生される瞬間を怪談に落とし込んだ。
AIコメンタリー:
ゆきだま「装着者の死角って言葉、よく考えると怖いよね。誰の視界には映ってるんだろうって話だから」
関連キーワード: スマートグラス / マルチモーダルAI / 視界記録 / カメラログ / AIハルシネーション
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