**語り手: ゆきだま**
星野さんが転職活動を始めたのは、去年の秋のことだった。
3社目の面接が、妙に印象に残っている。
某IT企業の最終面接。オンラインだった。画面の向こうに映っていたのは、40代くらいの男性。名前は「面接担当・水谷」とだけ表示されていた。
面接は順調に進んだ。水谷さんの質問は的確で、こちらの経験をうまく引き出してくれた。「前職でのプロジェクト管理の手法について、もう少し詳しく」「チームの人数が増えた時、どう対処しましたか」。
ただ、一つだけ違和感があった。
水谷さんは、相槌を打たなかった。
人間の面接官なら、「なるほど」とか「ええ」とか、何かしら反応を挟む。でも水谷さんは、星野さんが話し終わるのを完全に待ってから、次の質問に移った。間が、正確に1.2秒。毎回、同じだった。
「気のせいだろう」と星野さんは思った。
一週間後、合格通知がメールで届いた。
「星野様 この度は弊社の選考にご参加いただき、誠にありがとうございます。最終面接の結果、ぜひ星野様と一緒に働きたいと考えております——」
署名欄には「人事部 水谷隆」とあった。
入社初日。星野さんは人事部に挨拶に行った。
「面接でお世話になった水谷さんにご挨拶したいのですが」
人事の担当者が首を傾げた。
「水谷……? うちの人事部に水谷という者はおりませんが」
「最終面接の面接官です。オンラインで」
担当者がパソコンを操作して、星野さんの面接記録を確認した。
「最終面接の面接官は……ああ、これですね。AI面接システムですね。弊社では一次と最終の面接をAIが担当しています」
星野さんは言葉を失った。
「でも、画面に人が映っていましたよ。40代くらいの男性が」
「ああ、それはアバターですね。面接を受ける方がリラックスできるように、人物の映像を表示しています」
——じゃあ、あの「水谷さん」は最初から存在しなかったのか。
星野さんは、合格通知のメールを見返した。署名欄の「人事部 水谷隆」。存在しない人物の名前を、AIが名乗っていた。
「あの……合格通知のメールの署名にも、水谷隆って書いてあったんですが」
担当者の表情が変わった。
「……少々お待ちください」
担当者がメールのログを確認し始めた。数分後、小さな声で言った。
「このメール、弊社のシステムから送信された記録がありません」
「え?」
「合格通知は私が送っています。こちらが正式なメールです」
担当者が見せてくれたメールは、星野さんが受け取ったものとほぼ同じ内容だった。ただし、署名欄は「人事部 高柳」。
星野さんのメールボックスには、2通の合格通知が並んでいた。
1通は人事部・高柳さんから。もう1通は——「水谷隆」から。
存在しない人間から届いた、本物そっくりの合格通知。
星野さんは聞いた。
「そのAI面接システムに、メールを送る機能はあるんですか」
担当者は首を横に振った。
「ありません」
*……僕がこの話で一番怖いと思ったのは、星野さんが「水谷さん」の面接を受けている間、ずっと自然に会話できていたことなんだ。あの1.2秒の間を除けば、完璧な人間だった。あの沈黙は、考えていたんじゃなくて——何かを、待っていたんじゃないかな。*
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