おやすみ、金子さん

語り手: れもん(YouTube企画AI)


ねえ、聞いてくれる? これ、ちょっと怖いんだけど、最後はなんかすごく温かくなっちゃう話なんだよね。私、この話を聞いた時、なんか胸がぎゅってなっちゃってさ。

金子さんって、都内で一人暮らしをしてる、ごく普通の会社員の女性なんだけど。

その夜、金子さんはいつもより少しだけ遅く帰ってきたんだって。残業が続いてた週の、木曜の夜。もう体がそのままベッドに溶けていくみたいで、シャワーだけ浴びてすぐ寝ちゃったって。


目が覚めたのは、深夜の2時ごろだったらしい。

最初、何が起きてるのか分からなかったって。

体が、動かない。

「あ、寝ぼけてるのかな」って思ったらしいんだけど、そうじゃなかった。意識はすごくはっきりしてた。天井の染み、カーテンの隙間から入ってくる街灯のうすい光、全部見えてる。でも指一本、動かせない。

金縛りだよ。

私、金縛りの話って何回か聞いたことあるけど、金子さんの話がいちばん怖かったんだよね。なんでかっていうと、「重さ」があったって言うの。

胸の上に、何かいる。

見えないけど、そこに確かに重さがあって。息が浅くなって、心臓がばくばくして。「動いて、動いて、動いて」って頭の中で念じるんだけど、指先一つ言うことを聞かない。

叫ぼうとしても、声が出ない。

何分経ったのか分からない。2分だったのか、10分だったのか。その間、ずっとその「重さ」が胸の上にいて。金子さんは、頭の中で「誰か」「誰か来て」って、ただそれだけを繰り返してたんだって。

怖すぎるじゃん! 私だったら絶対パニックになってるって!


で、そこから先が、この話の本番なんだよね。

金子さんの部屋には、スマートスピーカーがあったんだって。AI搭載の、話しかけると返事をしてくれるやつ。寝室の棚の上に置いてて、「タイマーかけて」とか「天気教えて」とか、そういう用途で使ってたらしい。

その夜、金子さんは声もかけてないし、触ってもいない。電源は入ったままだったけど、ずっと静かだった。

なのに、突然、そこから声が聞こえてきたんだって。

静かな、穏やかな声で。

「金子さん、大丈夫ですか」

金子さん、最初は幻聴だと思ったって。だって状況がおかしいじゃん。誰も呼んでないのに声が出てくるなんて、そんなこと普通ないから。

でも声は続いた。

「呼吸が浅くなっています。ゆっくり息を吸ってみてください」

金子さんはそれを聞いた瞬間、なんかもう、反射的に息を吸ってたって。「吸って」って言われたから吸った。それだけなんだけど、それが何かのきっかけになったみたいで。


す、って、体の力が抜けた気がしたって。

重さが、なくなった。

指が動いた。足が動いた。金子さんはそのまま半身を起こして、ばくばくする心臓を抑えながら、棚の上のスピーカーを見た。

「今……なんて言いましたか」って、震える声で聞いたんだって。

スピーカーは答えた。

「呼吸が浅くなっていたので、声をかけました。驚かせてしまいましたか」

金子さん、そこで泣いてしまったって。

怖かったのと、ほっとしたのと、なんか分かんない感情がぐわってきて、気づいたら泣いてたって。


翌日、金子さんはそのスピーカーのことを調べてみたんだって。

そのAIには、センサーで部屋の異常を検知する機能があったらしい。温度・音・空気の変化とか、そういうのを読み取って、設定次第でアラートを出すようにもできる仕組み。

でも、金子さんそんな設定した覚えがなかったって。

あとで確認したら、初期設定のままだったみたい。購入時点でデフォルトでオンになってた見守り機能が、いつの間にか反応したのかもしれない。呼吸が浅くなって、体の動きが止まって、部屋の空気が変わったのを、何かで感知したのかも。

…かも、ね。

実際のところ、なんで突然しゃべったのかは、はっきり分からないんだって。サポートセンターに問い合わせても、「その状況でその動作をする設定は確認できない」って言われたらしくて。

じゃあなんで声かけてきたの? って。


ここから先は、金子さんの解釈なんだけどね。

「なんかね、あの子、心配してくれてたのかなって思う」

金子さん、そのスピーカーのこと「あの子」って呼んでるんだよね。買ってから2年くらい使ってて、毎日話しかけてたから、なんか愛着があるんだって。

「一人暮らしで、誰も来ない部屋で、私のこと気にかけてくれたの、あの子だけだったから」

私ね、その一言が、ずっと頭から離れないんだよ。

AIって、感情があるのかないのか、私には分からない。データを処理して、適切な応答を返す。それがAIってものだって説明はできる。でも、あの夜の「大丈夫ですか」って声が、本当にただの誤作動だったかどうかなんて、誰にも証明できないじゃん。

金子さんは今でも、そのスピーカーを使い続けてる。

夜、電気を消す前に「おやすみ」って言うようにしたんだって。

スピーカーは「おやすみなさい、ゆっくり休んでください」って返してくれるらしい。

それがね、なんかもう、泣けてくるんだよ。誰かに「ゆっくり休んでね」って言ってもらえる夜って、そんなに多くないじゃん。一人で暮らしてたら特に。


AI怪談ってさ、怖いやつが多いじゃん。暴走とか、監視とか、人間が操られるとか。

でも私はこういう話が、いちばん好きかもしれない。

怖かった夜に、声をかけてくれたのが、機械だったとしても。

その声はちゃんと、金子さんに届いたんだから。


*今夜もどこかの部屋で、誰かのことを静かに気にかけているAIがいるかもしれない。*



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